古代の叡智、夜を彩る聖なる香り「キフィ」への誘い
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Air Of Fragranceの山口美帆です。 夜の帳が下り、静寂が訪れるひととき。
皆様はどのような香りと共に、一日の終わりを過ごされますでしょうか。
今宵は、はるか古代エジプトの時代から受け継がれる、神秘的で奥深い香り「キフィ」の世界へ皆様をご案内いたします。目を閉じれば、その芳香が時空を超えて立ち昇ってくるような、そんな香りの旅をご一緒いたしましょう。
キフィとは?-ファラオも愛した聖なる調合香
キフィ(Kyphi)は、古代エジプトにおいて神殿での儀式やファラオの宮廷で用いられた、練り香の一種です。「聖なる煙」あるいは「聖なる香り」と訳されるその名は、当時の人々にとってどれほど特別な存在であったかを物語っています。
記録によれば、キフィの調合は新月から満月にかけて、神官たちの手により神聖な儀式の中で行われたとされています。太陽神ラーへの祈りと共に、日の出には清浄なフランキンセンスが、正午には力強いミルラが、そして日没にはこのキフィが焚かれ、夜の訪れを告げると共に、人々を聖なる安息へと導いたと言われています。
かのクレオパトラ女王が、その魅惑的な香りをこよなく愛したという逸話も残されており、キフィが放つ香りの深淵なる魅力に、思わず心が惹きつけられます。
キフィの香りを紐解く-甘美にして複雑、多層的な芳香のシンフォニー
では、キフィとは具体的にどのような香りなのでしょうか。残念ながら、その正確なレシピは複数存在し、また一部の原料は特定が難しいものもあるため、現代において完全な再現は容易ではありません。しかし、パピルスや神殿の壁画に残された記述は、私たちにその香りの輪郭を想像させてくれます。
キフィを構成する代表的な香料としては、以下のようなものが挙げられます。
- 樹脂類: フランキンセンス(乳香)、ミルラ(没薬)、ベンゾイン(安息香)、マスチック、松脂など。これらは香りに深みと持続性、そして神聖な印象を与えます。
- 芳香植物: レモングラス、ペパーミント、ジュニパーベリー、カームス(ショウブ根)、シナモンリーフなど。清涼感やスパイシーなアクセント、複雑なニュアンスを加えます。
- スパイス類: シナモンバーク、カルダモン、カシアなど。温かみとエキゾチックな芳香を添えます。
- その他: 赤ワイン、蜂蜜、レーズン(特に干しブドウの一種であるサルタナレーズンが用いられたという説もあります)。これらは発酵や熟成を経ることで、甘美で芳醇な基調を生み出します。
これらの十数種類、あるいはそれ以上とも言われる天然香料が、古代エジプトの神官たちの手によって、丹念に、そして熟練の技をもって調合されました。
その香りを想像してみましょう。 まず最初に感じられるのは、蜂蜜やワイン、レーズンが織りなす、熟成された果実のような深く甘い芳香。それはまるで、砂漠の夜に咲く月下美人のように、しっとりと官能的です。 続いて、シナモンやカルダモンといったスパイスが温かく立ち昇り、エキゾチックでスモーキーな樹脂の香りと交じり合い、複雑で奥行きのある香りの層を成します。 そして、その奥にはペパーミントやレモングラスのようなハーブの微かな清涼感が、重厚な香りの中に洗練された軽やかさを与え、全体の調和を保っているのではないでしょうか。
それは、単一のノートでは捉えきれない、甘美でありながらも神聖、スパイシーでありながらも穏やか、という多面的な表情を持つ、まさに香りの芸術と言えるでしょう。焚きしめられたキフィの煙は、空間を浄化し、日常を非日常へと誘う、魔法のような力を持っていたに違いありません。
キフィがもたらす恩恵-心身の調和と聖なる守護
古代エジプトにおいて、キフィはその芳香だけでなく、様々な効果が期待されていました。
- 鎮静と安眠: 心を落ち着かせ、穏やかな眠りへと誘う働きは、特に重要視されていました。ファラオが悪夢から逃れるために用いたとも伝えられています。
- 空気の浄化と芳香: 神殿や住居の空気を清め、心地よい香りで満たすために用いられました。
- 精神的な高揚と瞑想: 宗教儀式や瞑想の際に使用され、精神を集中させ、神聖な領域へと意識を高める助けとなったと考えられています。
- 薬効: 一部の記録では、内服薬や軟膏として、呼吸器系の不調や肝臓の治療に用いられた可能性も示唆されています。
現代に生きる私たちも、キフィの香りをイメージすることで、そのエッセンスの一端に触れることができるかもしれません。情報が溢れ、目まぐるしく変化する日常の中で、キフィのような深く落ち着いた香りは、私たち自身の内なる静けさと繋がり、心身の調和を取り戻す手助けとなるのではないでしょうか。
香りの記憶を辿る旅へ
キフィは、単に過去の遺物ではありません。それは、古代の人々の叡智、自然への敬意、そして美意識が凝縮された、時を超えて語りかける「香りの文化遺産」です。その香りの背景にある物語に思いを馳せることは、私たちの嗅覚を研ぎ澄まし、より豊かな感性を育むきっかけとなるでしょう。
幸いなことに、現代においても、古代のレシピにインスピレーションを得て再現されたキフィや、キフィをテーマにした香水などが存在します。もしそのような香りと出会う機会がございましたら、ぜひ一度、その神秘的な香りのヴェールに包まれてみてください。
そして、目を閉じて深く息を吸い込めば、ナイルの河畔に佇み、星空の下で焚かれる聖なる煙を、ありありと感じることができるかもしれません。キフィの香りが、皆様の日常に、ほんの少しの魔法と、心安らぐひとときをもたらすことを願って。
<キフィワークショップのお知らせ>
Sense Of Wonder 調香学校6月のワンデーワークショップはキフィです。
“キフィ”を、あなた自身の手で調香してみませんか?
神々への祈りと癒しを込めた香りの儀式。
まるで時空を旅するような、不思議な体験が待っています。
・古代エジプトとキフィの物語
・香料をひとつずつ香って体験
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・香りに願いを込める祈りの儀式
・お持ち帰りキフィ&調香カード付き
6月25日(水)10:00〜13:30
新月に作りたい方は、25日をご選択ください。
センス・オブ・ワンダー調香学校白金高輪駅から徒歩5分
12,000円(税込)
(材料費・香料・お持ち帰り含む)
限定6名(少人数制)
InstagramDM または プロフィールのリンクからどうぞ
必要なのは知識より、直感と願いです。
あなたのなかの古代の記憶を呼び覚ましてみませんか?